魔法の行使には、おしなべて発声が必要です。その中でも、奈落魔法が要求する発声は、他の系統とはいささか趣を異にします。それは、口にする内容が“術者の願望”であり、さらに“相手が存在しない”点です。前者の点で定型の呪文や｜起動語《コマンドワード》が要求される古代語魔法や魔動機術と異なり、後者の点で神々・妖精・精霊に語りかける神聖魔法・妖精魔法・森羅魔法と異なる、ということです。
とどのつまり、奈落魔法の行使に際して口にする｜願望《ことば》とは、術者みずからが起こしたい現象をイメージし、魔法を発現する契機とするためのものなのです。
そのうえで、多くの｜奈落睨士《アビスゲイザー》は、一言から二言ほどの端的な言葉で魔法を発現します。とくに戦闘中のような切迫した状況で、これは顕著です。熟達した術士ほどこの傾向は強まり、達人ともなれば“爆ぜろ”や“轟け”のように、ただ一語のみで大規模な魔法現象をも引き起こします。戦闘においては素早く結果を得られることが重要ですから、これは当然のことだと言えるでしょう。

しかし、あえて願望を長大かつ仔細に口述することで、通常よりも強力に魔法を行使することもできます。

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